届かなかった話
2008.12.29 Monday |
家で使っている湯飲みを見て、ふと思い出した。この湯飲みをもらったときのエピソードを。
もう10年以上前のことだ。まだ子どもが二人だったとき、町内に宅配専門のすし屋ができた。
今でこそチェーン店の宅配すし屋があるし、持ち帰り専門のすし屋もあるが、その頃あったのは回転すしと古くからある回らないすし屋くらい。物珍しさもあったし、我が家はすしが好きなので、子ども二人の誕生祝いにと一週間くらい前に注文した。
さて当日、すしが届くのを今か今かと待ったけれどもなかなか来ない。祭日だったので注文が殺到して遅れているのか、できたばかりの店だから手際が悪いのかと時間を過ぎるまで待ったが、とうとうしびれを切らして「まだですか」と電話をかけた。すると、あろうことかうちが頼んだ注文は、すっかり忘れられていた。
回転したばかりとはいえ、注文殺到で忙しいかもしれないけど、電話で受けた注文を記入していなかったのか?それとも見落としか?なんにせよありえない。
「今から急いで作ってお持ちします」と言われたけど、みんな楽しみにして待っていたからお腹空いてるし、待ちくたびれたので「もういいです。いりません」と断り、外食に出かけた。
1〜2時間後、すっかり満足して帰ってくると、マンションのエントランスでうろうろしている人がいる。
「すみません、○○○号室の××さんですか?」
宅配すし屋の人だった。いらないと断ったすしを作って届けに来たらしい。
「申し訳ありません、せっかく注文いただいたのに当方の手違いで…もう腹いっぱいかと思いますが、どうか受け取ってください」
と、すしを差し出された。それから、開店記念に配布しているという湯飲み。
夫はすしなんかもう受け取りたくなかったようだが、断りきれずにもらうだけもらった。でも誰も食べる気にならないし、生ものだから明日食べるわけにもいかない。近所に住む親戚に電話をしてみると、ちょうど休みの日なので家で騒いでいたようで、喜んですしをもらってくれた。
その後、宅配すし屋はすぐに閉店してしまったようだ。気がついたら店舗は看板を下ろしていた。
「あれじゃあ無理もないよね。もしかしたら注文忘れられたの、うちだけじゃなかったかもよ」
「まあ、ニーズがなかったのかもしれないし」
と話した私たち。もらった湯飲みだけは、今も活躍している。